ひとくちに天使といっても、いろいろあるものだったんだなあ・・。 |
feltonrolfeさんが訳を載せてくださってるブログ「アンクル ウィーク バイ ウィーク」で、60年代『NYタイムス』の、貴重なインタビューを読むことができた。以下の引用は、「New York Times 1965年6月20日@」による。 『ロシア訛(なま)りのイリヤ・クリヤキンは、ナポレオン・ソロを演じるロバート・ヴォーンの助手をつとめる、小ちゃなスーパー・スパイである。−−中略−−華奢(きゃしゃ)だけど強い5フィート8インチの体に、せんさいで、ちょっと気どっていうなら、詩人の顔を持っている。均衡のとれた頭に、ぎざぎざな髪がととのえられているのは、金髪の王冠であり、唯美主義者の天使のようだ。(訳注 ここでの「天使」とはケルビム。9天使中の第2位で知識をつかさどる、智天使の名を使っています)』 ここでなぜ、一般的な“エンジェル=天使”って名称ではなく、ケルビムって、いわば“天使の固有名詞”が出てくるのか? これが気になって気になって。思わず調べてしまった。 ■まずは、「ケルビム」についての基礎 ケルビム(cherbim)とは、訳注にもあるように、9つの天の「第8天」の天使、位は2位。(おお、002か?!・・もとい) 和名「智天使」の名のとおり、知恵をつかさどる。恒星天の守護を担当。「祈る者」「とりなす者・仲裁者」という説もあり。 エデンの園の「知恵の樹」の実をアダムとイヴが喰べて楽園を追われたあと、「生命の樹」を、炎の剣をもって守護する役でもある。(知恵・生命の両方の樹の実を喰べると、神と同じになってしまうので・・) また、『レイダース/失われたアーク』で有名になったアーク(聖櫃)を守護する、また神の玉座を運ぶ役目もあるとか。 ちなみにケルビムは複数形。単数形はケルブ(cherb)。「ケルビムみたい(=cherbic)」というと「可愛い」の意だそうな♪ ■「可愛い」だけじゃない、ケルビムの歴史 キーワード「ケルビム」で、グーグルのイメージ検索してみると、よくある可愛い天使と、神話に出てくる怪物のような姿と、どっちも出てくるのに驚かされる。数ある天使のなかでも、ケルビムはとくに、『旧約』聖書の時代からの神のイメージが、『新約』のキリスト教文化に融合された気配があるのだな。 『旧約』の、エゼキエルの幻にあらわれるケルビムは、以下のような姿。 「それは4つの生き物より成る。4つの顔と、4つの翼をもつ。その顔は、人間・獅子・牡牛・鷲の顔である。その形は、燃える炭火のようでもあり、たいまつのようでもある。その4つの顔の前、地の上には4つの車輪がある。車輪は黄金色の玉のようで、四方に進むことが可能。高く、おそろしく、すべての車輪に眼がある。生き物と車輪はともに動き・・」 ・・なんやよう判らんが、そうとう不気味なシロモノのようでんな・・(^_^;A 「車輪」はケルビムの象徴であり、宗教画のケルビムの足元に、翼ある車輪が描かれることがあるのは、このため。 また、ケルビムのもう1つ上の天使、最上級のセラピムは「6つの翼をもち、そのうち2つは顔をおおい、2つは足をおおい、のこる2つの翼で空を駆ける」といわれている。 ケルビムをふくむ天使の名前や、階級、はたして天使は男か女か? などの議論と分類にふけったのは、もっぱら東方(ビザンチン系・正教)だったそうな。イリヤの母国であるロシアも正教ですね。 西方(カトリック・プロテスタント系)つまり欧州では、あまり天使の階級などには興味をしめさなかったそうな。 時代が下り、東方教会のイメージが西方と融合しはじめたとき、ケルビムの「4つの顔」は、それぞれ、『新約』の聖人の象徴へと分割されていった。(人間=聖マタイ、獅子=聖マルコ、牡牛=聖ルカ、鷲=聖ヨハネ) それにしたがい、ケルビムは恐ろしげな怪物から、可愛い子どもの顔に変化し、ただ4つの翼をもつ天使というイメージになる。しまいには最上級の天使セラピムとも融合し、ときには6つの翼をもつ天使、という形になっていったわけです。 西方の宗教画は、あまり天使を厳密に分けず、「赤い天使=セラピム」「青い天使=ケルビム」という程度の区別だそうな。翼も、4枚だったり、6枚だったりするし。 ■宗教画にみるケルビムの見分けかた ほとんどの場合、ケルビムは顔だけで、あとは翼しかない存在。「2つの翼もて足=体をおおう」セラピムと融合したせいかな?(というか、翼にかくされた体を描いてるうちに、だんだん体が省略されてしまったらしい) 特徴は、4枚の翼のうち、2枚を頭上で交差させ、残る2枚の翼を体の前で交差させてるのが多い。この「頭上で翼を交差させてる」のがケルビムの特徴らしいが、ときには交差させず、顔の両側にひろげて飛んでるのもあったりするから、ややこしや☆ ←これはセラピムとおなじ、翼が6枚あるケルビム。 こうなるともう、何がなんだか判らんが、悪くいえば、この「いいかげんさ」が、ケルビム最大の特徴。よくいえば、東方と西方の出逢い。東西のキリスト教文化のイメージすべて併せ持ち、どんなイメージも取りこみ、融合する存在が、ケルビムという天使なわけ。怪物の顔も、幼児の顔も、同時に持つと。 どうです? なるほど、すごくイリヤのイメージに合ってるなぁ〜と、私は思いました。 『キリストや聖母の円光のまわりに、四枚の翼をきちんと畳んだ小さな可愛らしい小鳥のようなケルビムたちが、花輪のようにびっしり群がっているのを発見するのは、なかなか楽しいものである。−−中略−−旧約時代、カルデアのケバル河畔に生まれた奇怪な生き物は、かくてヨーロッパで完全な脱皮をとげ、花のように繊細な、貝殻のように精緻(せいち=細部までよく出来てること)な、アラベスクのように優美な、そして童子のように匂やかな、みずみずしい天使に変貌したのである。』 澁澤龍彦『夢の宇宙誌』(河出文庫)所収「天使について」より
(了) 05.7/13 ねんど人形制作:人造アンクル・マン工房 |