神聖ヰリヤ帝国・TOPへ英国的な、あまりにも英国的な。もはやこの一篇は、『ナポレオン・ソロ』という封筒に入れた、ハマー・プロへの恋文である。
「イリヤン日記」#5−『ポーロック館』はシュールだ・・2.

で・・『ポーロック館』つづきです。
2階建バスでイリヤをラチった、つぎのシーンではもう、車で館へ向かってるところ。
英国の、しかもかなり片田舎らしい景色。
車はクラシック・カー。扉がカンノン開きの、車というより、まだ馬車に近い優雅な形。
この車の後部席に、イリヤは手錠と足錠をかけられてすわってる。この手錠と足錠は(よくある囚人用のゴツいのじゃなく)アクセサリー用のような、妙にきゃしゃなデザインのクサリでつないである。車のふんいきに合わしたのか? ポーロック館主、どこまでも美学をつらぬくお人よのぅ(笑)
それにしても、どうやってNYから英国まで、イリヤを連れてきたんだー?
このおすがたのイリヤを、まさか一般客といっしょのヒコーキには乗せられまい。かといって拘束なしでは、イリヤとて「アンクル」のトップ・エージェント、すき見て逃げるくらいのことはしそうである。
自家用機でもチャーターした? なにしろイリヤ1人のために、ロンドンからNYまで2階建バス運んでったお人である。いやいや、バスの中で「終点まで行くんだ、クリヤキン」「どちらまで?−−屋敷だ」って言ってたから、フェリー1台チャーターして、バスごと乗せたとか?
うへー・・しかし、2階建バスごと乗れるフェリーってあるんかぃ(爆)

一方、「アンクル」本部には、造花の果樹が贈られてくる。枝には、イリヤの身分証明書。そしてオモチャの小鳥がとまらせてあり、背中を押すと吹きこまれたメッセージが聞けるという手のこみよう。

『ヰリヤはたしかに、お預かり申した。雌伏して7年、再度お目見え。いまぞ訪れ来ぬ、わが復讐のとき。パートリッジの執念なりや・・』

とかなんとか。たぶん、原語ではバリバリの英国ふうキングス・イングリッシュなんであろう。(ちなみに“パートリッジ”は、ポーロック館主の苗字。ややこしくなるから、“ポーロック館主”で統一する)
これを聞いたウェイバリー課長とナポさん、「ああ・・あいつか」と思い出す。それによると、
「南米に“夢の帝国”をきずき、いっときは成功した」
「しかしナポさんに追われ、かつて生還した者のない“雨の森”に逃げこんだまま、消息不明」
どーよ、この怪しさ!・・f(^ー^;
“南米”ってとこが、脚本のうまさ。じっさい、ラテン系だけにわりと明るい印象の独裁政権が、けっこうあったもんね。野望いだいて英国人が乗りこみ、パラダイス作りを実験する舞台としては、いかにもありそう。NYにバス1台持ってった財力と行動力からして(しつこいようだが)、やりかねんわな。
つまり動機は「アンクル」への、とくにナポさんへの、個人的うらみ。
まっさきに目をつけたのが、イリヤ。
・・まんざら阿呆じゃないな。あなどれない情報収集能力と、分析力(笑)
「こんどこそ、ヤツの息のねを止めるように。もちろん、イリヤ救出もな」と課長に命じられたナポさん、「ほんと、イリヤって世話がやける男よね」・・ボヤきつつ、妙にうれしそうである。

さて、ポーロック館。
さすが英国、先代の館主の幽霊が出るというゴチック趣味の、堂々たる大邸宅。庭園には英国式の、生け垣でつくった迷路がある。
ここには、飢えたオオカミが放し飼いだわ、足元には動物用ワナがいっぱい仕掛けてあるわ、うっかり地雷踏むと地面からトゲトゲが飛び出すわ、張られたワイヤに足ひっかけると茂みから矢が飛んでくるわ・・。
その怪しい迷路のどまん中に、あずまやがある。ここの床に地下へのかくし扉があり、中世風の拷問部屋へとつづく。ちなみに拷問部屋へは、かくし通路を通れば、きけんな迷路を通らず、家の中から行ける・・RPGのダンジョンかよー(^o^)゙
ポーロック館主は、この“魔女狩り”時代をホーフツとさせる拷問部屋にイリヤを連れこみ、カベの手枷につなぐ。すぐとなりには、手枷につながれたまま絶命したらしき者の白骨が、いまもそのまま(このガイコツくん、理科室の標本そのもので、とっても愛くるしいぞ・・☆)。
中世ふうの造りだから、灯りはタイマツと、ロウソクのみ。その濃い陰翳にうかびあがる、囚われの身のイリヤのアップの、いたましいったら麗しいったら・・(絶句)・・キリないから話をすすめる。
趣味だよね〜♪ 道楽だよね〜♪ だってさ、想像してみてよ〜。
英国のゴシック趣味の古い館の、生け垣迷路の庭園の地下の、秘密の通路の先の、中世ふう拷問部屋のカベに、ガイコツくんとならんで、手枷でつながれてるイリヤ、ですぜ、貴方。
美味しさ、てんこ盛り・・嗚呼、何(どう)しませう?
「どうやら、スタッフの誰かが(あるいは全員が)、イリヤを深く愛してる・・」
と私がカンぐっても、むりないといえよう(^m^*)゙

ここまでやったわりに、ポーロック館主の犯罪計画そのものは、たわいないの一言。
イリヤをえさにして、ナポさんを釣る。ナポさんをえさに、ウェイバリー課長を釣る。そうやって「いずれアンクル全員を生け捕る」って・・なんたる気の長さ・・鮎の友釣りじゃないんだから(爆)。

ナポさんが救出にやってくるが、応接間の椅子にもほほえましい仕掛けがあってな〜(^o^)゛
これまた、とっつかまり、ウェイバリー課長の呼び出しをこばんだため、イリヤの目の前で、背丈ひきのばし拷問具(というのか?)にかけられる。
ところでポーロック館主には、ふしぎなノリの奥方がいる。コトバづかいも、しぐさも典雅な英国淑女だが。ナポさんを踊りにさそい、楽しげにひとり音楽かけて踊りの練習してるかと思えば、「夫を“雨の森”から救い出したのは、このあたくし」と、あざやかにライフルをぶっぱなし、「あなた、拷問はあたくしの役目よ」と誇らしげにナポさんを拷問し、イリヤの目の前でタイマツの炎をちらつかせておどし、特技は“ナワ抜け”・・ちょっと、説明不能。見ないと判らんだろう。なにしろ、見てもよく判らんから(笑) この人の存在は、妙な仕掛けだらけの迷路よりなにより、もっともシュールである☆

後半は、拷問部屋を脱出し、あのワナだらけの迷路を、ナポさん・イリヤ・使用人の娘の3人が逃げるハラハラドキドキ。先代の館主を殺したという因縁つきの剣をナポさんが持ち出し、三銃士なみの剣戟をしてみせる見せ場あり。しかし迷路をたどってったら、もとのあずまやのところへ逆戻り。ポーロック館主はダイナマイトの入った箱の上にすわり、最後の手段、皆とともに爆死しようとする。さ〜て、どうなる・・?
・・ここまでブッこわれた話だと、ブッこわれたまま終るしかないが、それで充分。
どうもポーロック館主、復讐うんぬんより、ただひたすらイリヤを手に入れたかった・・ように見える。そりゃま、ゴミゴミしたNY、硝煙くさい組織なぞに置いといては惜しい、わが屋敷のほうがふさわしい、お持ち帰りして秘蔵いたしたい、って気持はわかる・・その美意識、共感できますぞぉ〜(^.^9゜
イリヤというよりマッカラム様、つくづく英国の怪しい旧い館がお似合い。英国出身だから当然か。
巻末ふろく、おずぼんの裾からげて自転車に乗るウェイバリー課長という、たいへん珍しいものも見られます(笑)。

というような、冗談はさておき。
『ポーロック館』が素敵なのは、英国舞台の古い怪奇映画への、郷愁が濃厚にただよってるから。
いにしえの吸血鬼映画とか・・とりわけハマー・プロの、ヴィンセント・プライス(※M・ジャクソン『スリラー』のナレーター。#28『キツネとタヌキ』のV・マートン役でもある)主演の、チープな怪談映画への愛を感じるから。そもそも、ああいう映画そのものが、低予算なんのその、ノリと気合と愛で「とりゃぁ〜!」と作ってる印象のモノが多かった。
とくに、ナポさんがイリヤ救出に、ポーロック館の近くまで来て、情報あつめに村の居酒屋に入る場面。ジョッキ片手にダーツやってる村人たちの、よそ者を見るウサンくさそうな態度や顔つき、素晴しい。怪奇映画好きだったろうスタッフが、見事にカンどころおさえた作り。見ててゾクゾクした♪
ポーロック館主の奥方の、気品ある、妙なこわれっぷりも、古い映画に原型がありそう。『毒薬と老嬢』って、浮浪者を家に泊めては「天国へ送ってラクにしてさしあげましょ」と安楽死させ、地下に埋めてる老姉妹って映画がむかしあったが、あれに一脈つうじる気がしたな。
だからほんとは、ロンドンのバスがNYに出現しようが、物語の整合性なんて、どうでもいいんだ。「掟やぶりでも強引でもいい、どうしても英国舞台にしたいんだ〜!」って、作り手のもどかしいほどの思い入れを感じたもの。ああ私と同じものを愛してきた人がここにいる、いとしい、と思ったよ。
『ナポ・ソロ』は、TVドラマに最近のものほど予算もなかったろうから、セットがチープなんだけど、それがいかにも古い怪談映画ぽくて、かえってイイ味出してる。この、したたかさ。
(※メル友からの情報によると『ナポ・ソロ』のセットは『コンバット』と使いまわしで、コンバット組が戦闘シーン撮ってこわしてしまうんで、直して使うのが大変だったそうだ)
セットがチープでも、脚本と、役者がよくて、愛と想いのこもった作りなら、何十年たっても鑑賞に耐える。つまり・・そういうこっちゃ、ね。
(この項、終り)
03.9/25
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